「酒一筋」(岡山)の思い出

私が愛したお酒たち

県知事賞の純米酒

先日、あるスーパーに行ったら、 「酒一筋」という岡山の日本酒があった。珍しい。懐かしさも手伝って、買ってきた。この酒、何がいいと言って、まず高くない。一番よく見かける黄色いラベルの純米酒が、1000円くらいなのである。どうも自分の口卑しさを告白するようで気が引けるが、毎日飲みたい向きには、こういう酒がありがたい。

味わいもいい。私には少し重い感じがするが、甘み、酸味のバランスが良く、直球勝負の意気込みが伝わってくる。燗上がりするタイプらしく、熱燗で飲むのがいいという声もネット上にあるので、近づいてきたことでもあるし、今度試してみよう。同社のホームページによると、この純米酒は平成29年度の岡山県清酒品評会の純米部門で、県知事賞を受賞しているそうだ。

インターネット黎明期の出会い

懐かしいと書いたのは、この酒を初めて飲んだ25年ほど前の記憶が、蘇ったからだ。当時はインターネットの黎明期で、「ご近所さんを探せ」という面白いサイトがあった。ネット上で自分の住む地域(他の地域でも、もちろんいい)の掲示板に書き込むと、誰かが反応してくれるのである。出会い系に利用されそうなものだが、このサイトはその点が厳しく(直接のやり取りに何か制限があったのかもしれない)、知らない地域のことを問い合わせると、親切な人が返事をくれたりしたものだった。私もある時など、留萌の人に地元の風景写真を撮ってもらい、送ってもらったことさえある。

今はなくなったそのサイトで、連絡をくれた女性がいた。大みそかの夜(私は偶然、仕事をしていた)、彼女は「こんな時間に書き込みをしている人がいるので、メッセージを送りました」という。私は札幌にいて、こんな仕事をしていますという返事を書くと、彼女は「岡山に住む27歳で、看護学校に通っています。同年代の友達には、この年で学生と言えるなんてずるいと言われています」と言う。私が「最近、酒一筋というお酒を飲みました」と書くと、「私も自宅で飲むのは、それです」とのこと。その日以来、2,3回メールのやりとりをしたが、やがて自然消滅した。その彼女も50代になっているはず。20代半ばで学生になったのは、固い決意があったからだろう。彼女はどんな人生を送っているのだろうか。今も同じ酒を飲んでいるだろうか。酒一筋のラベルを見て、そんなことを思い出したのだった。

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