女性はなぜ、うれしいとペンギン化するのか?

皇帝ペンギン。こうしてみると、けっこう凛々しい。 日々のかけら
皇帝ペンギン。こうしてみると、けっこう凛々しい。

すれ違った女性を振り向くと

少し前のことである。私は雪道を歩いていた。すると、前から歩いてくる若い女性が、ニコニコしながら両腕をパタパタ上下させて近づいてくる。ちょうどペンギンが歩く時のように。見知らぬ女性である。当然、私に向かって微笑んでいるのではない。歩道は雪で細くなっており、正面でそんな動作をされると、何となく変な感じだ。だが、ふと気づいた。そうか、さっき背の高いヨーロッパ人男性を追い越したが、彼に向かってしているんだ。彼女とすれ違ってから数秒して振り向くと、案の定、二人はハグしていた。

若いということは、無条件にいいことである。私が同じことをしたら、相手が若い女性であろうと、なかろうと、(若い女性であればいっそう)単なる好色ジジイにしか見えない。そんなことがあって数日後、またペンギンパタパタを見た。今度も若い女性である。うれしそうな顔(明らかにいいことがあったに違いない)で歩いてくる。「これは」と思い、すれ違いざまに振り返ると、彼女は交差点で信号待ちをしながら、小さく両腕をパタパタさせていた。

体型がペンギンちゃん

女性のペンギン化現象を二度も目撃した私は、次のような推論をした。「鳥類から哺乳類に進化する過程で、羽根は腕に変わったが、感情が高ぶると羽根を動かす(?)という鳥類時代の記憶は受け継がれており、特に若い女性にはその行動が発現しやすい」。相当な無理があることは承知だが、この推論には次のような利点がある。それはうれしさの原因かつ対象が性的魅力のある異性である場合、ペンギンパタパタは「私は武器を隠していない」「私は上半身が健康である」などのメッセージとして有効である。さらに言えば、ハグのための軽い準備運動も兼ねているではないか。果し合いに向かう武士が腕が鳴るように、愛に向かう女性も腕が震えるのだ。

しかし、必ずしもペンギン化を好む女性ばかりではないことも事実である。二十代のころ、エアロビクスを始めたばかりの女性がこう言っていたのを思い出す。「レオタードを着てスタジオに入ったら、講師の先生が『まあ、かわいい。ちょこちょこ歩いて、ペンギンちゃんみたい』って、言うたんねん。ホンマにあのオバハン、何がペンギンや」。その女性はぽっちゃりでもなかったが、やはりプロの目から見れば、ペンギンちゃん体型だったのだろう。女性のペンギン化現象は一筋縄ではいかないようだ。

コメント

  1. るり子 より:

    「ヨコハマメリー」、10年以上前、横浜の映画館で観ました。
    野毛の街も近い、映画館を出れば、かつてメリーさんがいた街で。

    時空を超えて、貴方はいま北の街で観られたんだなぁ、と感慨深く…。

    最近は、カズオ・イシグロを読んでいます。

    • 今夜も男酒 より:

      るり子さま 
      コメント、ありがとうございました。私は20年ほど前、鎌倉に住んでいたことがあり、人けのない野毛の動物園でひとり時間を過ごすことがありました。

      あの頃はメリーさんのことを考えもしませんでしたが、思えばとても近いところにいたのかもしれません。

      カズオ・イシグロ、いずれ読んでみようと思っている作家です。