「男の顔は履歴書」とは誰の名言?

酒のみの健康術
『実話時代』2019年9月号より

雑誌『実話時代』の最終号

先日、「3回転んでわかったこと」を書いたが、その後、師匠と顔を合わせる機会があった。「どうしたんだ? その傷」と、聞かれたので、「実はあの晩、転んでしまい…」と顛末を報告した。「顔は役者の命じゃないか。まったく、ユーは何をやっているんだ。うちの事務所をクビだぞ」と、ジャニー喜多川風にからかわれてしまった。まったく、返す言葉もない。

それから師匠は、「この雑誌で知ったんだが、男の顔は履歴書という名文句、だれが言ったか、知ってる?」と言う。その雑誌とは『実話時代』。〇〇組とか××会とか△△一家とか、その筋の著名な親分の皆さんを紹介する月刊誌である。とうとうそれが完結(別な言い方をすると廃刊)になったらしい。その最終号(2019年9月号、7月29日発売)の表紙には「棺を蓋いて事定まる 名侠剛侠一代絵巻」「本誌が照射したヤクザ35年物語。渡世の気迫」など、最近では目にしなくなった魂のこもったタイトルが並んでいる。

その中の1つに、「戦後の鬼っ子 安藤組 安藤昇組長 男の顔は履歴書」という記事がある。安藤昇の左頬には傷跡があった。その記事によれば、対談か取材かで会ったジャーナリストの大宅壮一が、安藤に頼まれて書いた色紙に「男の顔は履歴書」としたためたのだとか。なかなかカッコイイ話である。ちなみに安藤昇は、いわゆる特攻崩れ。ヤクザを引退した後、俳優として活躍していた。端正な、しかし影のある顔立ちで、任侠映画で人気を博し、歌手としてレコードも出したらしい。

女の顔は請求書

ところで、「なぜ師匠ともあろう人が、こんな雑誌を毎号買っているんです?」と聞くと、「実は俺の中学校の同級生に、〇〇という男がいたんだ。焼尻島の出身でね。頭の切れる男で、いつかひとかどの人物になると見込んでいた。その彼が、ある時ヤクザになったという噂を聞いて、いつか彼がこの雑誌に載るだろうと、買い続けたんだよ。近くのコンビニで朝日新聞と一緒に買うから、レジの人は、こいつは一体何者なのかと不審に思っていたかもね」

師匠の侠気を垣間見た、ちょっといい話である。もっとも師匠は、最後にこう言った。「でも、女の顔は請求書という名言は、だれが言ったのだろうか。未解明なんだ」。私はそれを師匠の名言だと思っていた。

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