思い出のギャグ

酒場物語
今年の初めに飲んだ、いい酒2種。値段もお手頃でした。

キャッシュレス時代を先取り

コロナ騒ぎもあり、きっとススキノは寂しいんだろうなと思う。こういう時こそ飲みに行くのが、天邪鬼な酒飲みの矜持というものであるが、いかんせん、最近あまり体調がよくない。情けないことに、静かな夜を過ごしてばかりいる。そんな時、思い出すのは、「勝のやきとり」で、勝さんと師匠が繰り広げたおやじギャグの数々だ。

時間があるときは、師匠は開店と同時に行き、いつもの隅の席に座り、勝さんとネタの仕込みをしていたという。そんなこととは知らずに、客が来る。たとえば消費税が10パーセントになった頃、キャッシュレスによる還元が話題になっていた。私が少し遅れて飲みに行くと、師匠が言う。「キャッシュレスって、なんのことだ?」。師匠も勝さんもカードを持たないので、たぶんあまり詳しくないだろうと、私が答える。「カードで払うことですよ。現金を持たなくてもよくなります」。すると、勝さんが叫ぶ。「現金を持たない? それなら、オレは昔っからキャッシュレスだべさあーーー」。見事に二人の仕掛けにはまったのだ。

スイス銀行某支店に口座が

こんなこともあった。アベノミクスの始まりの頃、勝さんの店でも株や金の話をする人が、けっこういた。そんな時、師匠は余裕たっぷりの表情で言う。「庶民はそういったことを気にするらしいが、我々は…」。すると、勝さんがいわくありげに目くばせしながら、「師匠、それは言わない方が。限られた世界の話ですから」。当然、客は気になって、「何のこと?」というような怪訝な顔をする。すると、勝さんが「こちらの師匠は大物ですから」と、持ち上げる。

そこで師匠、涼しい顔で曰く「スイス銀行新琴似支店に口座を持っているのは、俺くらいだろうな」。もちろん、新琴似支店など存在しない。いや、スイス銀行という名称の銀行自体、そもそも存在しないらしい(漫画のゴルゴ13には登場するが)。これがすぐに冗談だとわかる客は意外に少ないのだが、新琴似支店という絶妙の名前に、私は何度聞いても思わず笑ってしまっていた。東京の感覚でいえば、「スイス銀行新小岩支店」といったところだろうか。ああ、バカなギャグを連発しながら、飲みたいなあ。コロナウィルスのせいばかりではなく、世間が窮屈になっている今、とことんふざけて飲み明かしたい。

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