秋刀魚に思う

酒場物語

女将にもらったカボス

先日のこと。いつものように師匠と「ぼんてん」に行ったら、女将が「ホヤは好き?」と聞くので、「もちろん」と答えたら、たっぷり出してくれた。これがじつに新鮮で、どんな酒にも合うとは思うが、ちょうど「飛露喜(ひろき)」の特別純米があった。もうメロメロに酔ってしまった。で、あまり記憶が定かではないのだが、「これ、もって帰りなさいよ」と、カボスを2つ、くれたのだと思う。自宅に帰ったら、カバンからポロリと転がり出た。

このカボス、炭酸水に絞って飲んでもおいしかったが、やはり秋刀魚と合わせたい。スーパーに行ってみると、この秋の不漁を反映して、秋刀魚の高いこと。しかも、身が細い。うーんと悩んだが、買って帰った。次は日本酒である。いつもの七蔵さんへ行き、「鶴齢(かくれい)」の特別純米ひやおろしを発見。内心小躍りしながら、手に取った。塩焼きにした秋刀魚に、カボスを絞りかけ、大根おろしとともに口に含む。脂の乗りはもう一つだが、うまくないはずがない。鶴齢のちょっと濃いめの味わいもよい。しみじみ秋である。

男前の副店長の好意

ところで、去年のことだが、「俳句ガーデン」というイベントが紀伊国屋書店であった。一人一句をあらかじめ投句して参加する一種の句会である。お題は秋刀魚。そこで拙句が、なんと当日のゲストの俳人・堀本裕樹さんに「堀本賞」として選ばれた。うれしい限りである。賞品は堀本さんのサイン入り著書である。

イベント後、いい気分で居酒屋に入った。店内が焼肉コーナーと居酒屋コーナーに分かれている店で、なんとなく焼肉の席へ。もちろんメニューは肉決まっているのだが、コンロの前で「これで秋刀魚を焼いて食べたいなあ」と、ひと言つぶやいたら、まだ若いスタッフがそれを聞きつけて「お客様、実はメニューにはないのですが、一匹ご用意できます」と言うではないか。26歳という副店長は気が利くことはもちろん、涼しげな男前。「お願いします」と頼んだら、「ほかのお客様にわかるとまずいので、調理場で焼いてきます」とのこと。それを一瞬だけ、目の前のコンロに乗せて、焼いた気分も味わった。それにしても、あんなにうまい秋刀魚もなかったなあ。

そうそう、堀本賞をいただいた拙句。
過去持たぬ女の顔で焼く秋刀魚
お粗末でした。

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