人生最高のビール

私が愛したお酒たち
どこかのカフェで飲んだギネス。昼ビールが飲みたい。

日本で2番目にできたオホーツクビール

このところ、体調がよくなかったので、酒が飲めずにいた。このブログも2週間ぶりである。3日前から、ようやく少しずつビールを飲み始めている。病人が回復してきて、重湯からおかゆに移行しているところといった感じである。飲んでおきながら、何を言ってるのやらと、呆れられるかもしれないが。

飲めないというのは寂しいもので、つい過去の思い出にすがってしまう。今、思い出しているのは、「人生最高のビール」のことだ。もう25年ほど前になるが、日本で地ビール製造が解禁になったばかりの頃である。地ビール第1号は新潟のエチゴビールだったが、わずかに遅れて第2号となったのが、北見のオホーツクビールだった。製造開始後、私は取材者として、オホーツクビールのレストランを訪ねた。

これを死に水にしたい

その時の醸造責任者だった人が、「これは、社長でも飲めないんですよ」と言って、出してくれたのが、醸造後まもないビール(非売品)だった。濾過していない、まだ冷蔵もしていない、いわば原酒である。グラスに注がれたそれは、濁った琥珀色。炭酸を添加していないから、泡もふわりと軽い感じがする。それをひと口飲んで、驚いた。今もあの時のショックは、忘れられない。焼き立てのパンが液体になって、舌を撫でているのである。穏やかな炭酸、滑らかさ、香ばしい麦の香り。じわりと伝わってくるうまさ。しかも、ほんのりと甘い。思わず、「これを死に水にしたい」と言ったら、その人に笑われてしまった。

ドイツのことわざの一つに、「ビールは煙突の陰で飲め」というのがあるらしい。中世のビールづくりの図に、大きな釜からビールをひしゃくですくい、コップに注いでいるものがある。つまり、その昔は醸造所で出来立てを飲んでいたのだ。もちろん、無濾過、炭酸も無添加である。オホーツクビールで飲んだのは、中世のビールに限りなく近いものだったのだ。冷たくなくても、うまいのだ。いや、冷たくない方が、香りも味もリアルにわかる分、おいしいとさえ言える。今では地ビール(最近はクラフトビールというらしい)も、濾過し、炭酸を添加し、冷たくして出すようになった。缶入り、瓶入りが主流とも聞く。私の死に水は、手の届かない逃げ水になってしまった。

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