人生最長の歯科治療

洞爺湖畔の蕎麦屋「そば蔵」の天ぷらそば(冷)。別メニューで天ざるもあるのだが、これの方が安く、十分満足。 酒のみの健康術
洞爺湖畔の蕎麦屋「そば蔵」の天ぷらそば(冷)。別メニューで天ざるもあるのだが、これの方が安く、十分満足。

奥歯にものが挟まったような歯医者

先日、右の下あごの奥歯の詰め物が外れた。2年に一度くらいあることなので、かかりつけの歯医者に行った。この歯医者、閑静な高級住宅街の一角にあり、五十代のドクターが、受付と歯科助手をこなす奥さんと二人でやっている。小路の中なので目立たないが、広々とした敷地に本宅があり、別に二階建ての医院がある。治療室は二階(一階は何に使っているのかわからない)、椅子は1つだけ。待合室にはドクターの趣味なのだろう、『ランニングの科学』といったマラソン関係の本が置いてある。小柄だが、がっしりしていて、いかにもスポーツマンらしい。あまり商売っ気のない人である。

このドクター、話し方が穏やかといえばいいが、奥歯にものが挟まったというか、断定を避ける言い方をする。今回、レントゲンを撮ってみると、虫歯が進行しているらしい。このまま詰め物をすると、さらに進行して、悪化するかもしれず、歯を削って、新しい詰め物をした方がいいと思いますが、どうします? と言った感じだ。そのうえ、「今、銀に混ぜる貴金属のパラジウムが高騰していて、保険治療でもセラミックの安いものと変わらない値段になってしまいます。セラミックも保険適用にすればいいのにと思うんですが、どうします?」と、私に聞く。

1時間半も治療は続いた

ロシアが価格を釣り上げているらしいのだが、うーむ、それならセラミックにしましょうということで、神経を抜く作業に入った。ところがこの奥歯、なかなかしぶといのである。麻酔を何本も打ちながら、歯を削り、唾液を吸い取り、神経を抜いていくのだが、3本の神経のうちの1本がどうしても完全には抜けない。しかも、奥歯だから作業がしづらいし、私も大口を開けている必要がある。「ちょっと楽にしてください」と休みながら、なんと1時間半も治療が続いた。

私もドクターもへとへとである。その挙句、最後になって「あ、8番か!」とドクターが叫んだ。この奥歯、親知らずだったのである。疲れた表情のドクターが力のない声で、「親知らずなので、抜いてもさほど影響がないんですが?」と言う。相変わらず、奥歯にものが挟まったような言い方だ。結局、1週間様子を見て、痛みが残るようなら神経を抜き切れていないことになるので、抜歯した方がよいという結論になりそうである。「先生もお疲れさまでした」と、なるべく皮肉に聞こえないように(ちょっと笑いを含みつつ)言って、私は高級住宅街の歯医者を後にした。人生最長の歯科治療は徒労に終わりそうである。

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