去年、九州の天草で
遠くへ行けない。いま、日本の多くの人たちがそうだ。近所だって、せいぜい散歩か、食品の買い物くらい。あとは、やむを得ない打ち合わせが、少し。師匠は非ネット派なので、昨日打ち合わせにお邪魔した。「私は子供のころから引きこもりだから、何も苦ではない」とおっしゃる。机の上には連休中の課題図書(?)が山積みだ。ペストやパンデミック関係が多いが、もちろん歴史学や社会学の分厚い本もある。たとえば速水融『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ』は、本格的な研究書で、面白そうだ。仕事の話は3分で済ませ、消毒薬(かなりアルコール度の高い飲み物)を口にしつつ、久しぶりにあれこれと本の話に花が咲いた。
遠くへ行けないのであれば、せめて遠くへ行った記憶を呼び覚まそう。ネット上でも「思い出の写真」をアップしている方が多い。私も去年の今頃は、九州の天草地方を旅していた。海の青さも、魚のうまさも、写真を手掛かりにしなくても、何とかまだ思い出せる。何より記憶に残っているのは、偶然通りかかった一軒の陶器作家の家だ。牛深港に向かう途中だったが、ちょうど「やきもの市」が開催されており、そののぼりに惹かれたのである。
お気に入りの器で飲む
「うつぎ窯」というその工房の主は、農家らしい。倉庫を改造したスペースに作品を並べてある。窓から入る光線がやわらかく、古い木の棚に置かれた陶器が、静かに出番を待っている風情が何ともいい。器の色合いや質感に温かみがあり、これはうれしい出会いだと直感した。北海道から来たことを喜んでいただき、「お茶でもどうぞ」と言ってくださり、居間でコーヒーをご馳走になった。焼き物のことを教えていただき、焼き締めの大皿を一点買って、旅の思い出にした。庭で採れたという晩柑のジャムまでいただいてしまった。
旅に出るかわりに、うつぎ窯の焼き物を買おう。そう思ったのは、10日ほど前のこと。ブログに連絡して、作品をいくつかアップしてもらい、その中から昨年の大皿に似合う小皿、そして別な味わいの角皿を注文した。すぐに届いたのだが、晩柑やかまぼこのお土産まで入っていた。何ともうれしい。さっそく薄切りにしたかまぼこを角皿に乗せ、日本酒と焼酎でささやかな宴会となった。今年も九州に旅して、飲んでいる気分になれたものだった。
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