映画「ヨコハマメリー」を観た

映画「ヨコハマメリー」のチラシ。メリーさんはいつもこの姿だった。 日々のかけら
映画「ヨコハマメリー」のチラシ。メリーさんはいつもこの姿だった。

戦争が生んだ娼婦

午後は何をしようか。ある休日、映画館「シアターキノ」のホームページをのぞくと、「ヨコハマメリー」の特別上映をやっていた。しかも、その日限りの1回のみ。17時半くらいからだという。さっそく映画館に行って当日の予約券を買い、自宅に戻って時間をつぶした後、観に行った。上映待ちをしているのは、9割がた女性だ。キノにしてはかなりの人気だろう。しかも、メリーさんに近いと思われる年齢の方も、ちらほらいる。

メリーさんは娼婦である。1995年当時、74歳。米軍将校のステディだった時期もあったらしい。40歳くらいの時に横浜に流れてきた。いつからか、顔に真っ白なおしろいを塗り、街頭に立つようになった。ある年齢になってからは住む部屋もなく、ビルの廊下にイスを並べて寝ていた。私はメリーさんを直接見たことはない。彼女がまだ横浜にいたころ、雑誌のグラビアか何かで読んだことがあるだけだが(それも彼女を揶揄するようなところがあった)、それでも20年以上も記憶に残っていた。彼女の写真はそれほど強く印象に残った。

消すために白く塗る

1995年に彼女が姿を消したあと、若い映画監督が彼女の消息を尋ねていく中で、出会った人々の証言をつないでいくドキュメンタリーである。メリーさんを知る人々の中には、彼女を助けようとした人もいたし、彼女に便宜を図った人もいた。メリーさんに衝撃を受けて、一人芝居を続けている女優(五大路子)もいる。あるいはこの映画以前に、やはりメリーさんを映画化しようとした人々もいた。圧倒的に多くの人はメリーさんを異物として、蔑みのまなざしで見ていたに違いないが、そうではない人々もこれほどいたことに感銘を受ける。例えばゲイのシャンソン歌手・永登元次郎や写真家・森日出夫など。

映画の中で大野慶人という舞踏家(有名な大野一雄の次男、2020年1月死去)が、なぜかワインを片手にメリーさんのしぐさをまねるのだが、その体の動きの素晴らしさに見とれてしまった。その大野の言葉「白く塗るのは消すためなんです」。メリーさんがある時から真っ白に塗るようになったのは、本来の自分を消して「ハマのメリー」になる儀式だったのかもしれない。だとしたら、多かれ少なかれ化粧を求められる女性たちは、「内なるメリー」に惹かれてこの映画を観に来たのかもしれない。映画のラストシーンでメリーさんの素顔が写るのだが、上品な、どこにでもいそうなおばあさんだった。

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