赤目四十八瀧心中未遂の記憶

車谷長吉の小説「赤目四十八瀧心中未遂」。この小説で直木賞を受賞した。 旅のかけら
車谷長吉の小説「赤目四十八瀧心中未遂」。この小説で直木賞を受賞した。

実は伊賀牛も食べていた

何の予備知識もなしに、赤目温泉に宿泊することになった。松阪に泊まった翌日、田舎の温泉に泊まりたいと、深く考えずに予約したのが、赤目温泉だったのだ。レンタカーのハンドルを握り、細く長く続く田舎道を走るその途中で、「もしかしたら、赤目四十八滝にある温泉か?」と、気づく。宿はまさしくその滝の入口にあった。山奥の傾斜地に建つ、立派な建物である。この滝は人気のスポットらしく、日帰りの観光客向けに駐車場と土産物屋が軒を並べている。だから、山奥の風情が深まっていくのは、日暮れになり、人もまばらになってから。薄暗くなった頃、滝の入場料を払う場所で、「午後4時半からナイト料金になります」とのこと。何かと思えば、夜のライトアップが人気で、そのための特別料金になっているそうだ。600円を支払い、滝音に導かれるように川沿いの道をゆく。

行ってみてわかったのだが、ライトアップ時間以降は、四つ目の不動滝までしか行けない。うねうねと続く細い道をどこまでも登り、最終の滝までいくことはできないのだ。が、それをするとなると、往復3時間というから、かえって良かったのかもしれない。闇がだんだん濃くなり、滝のライトアップが鮮やかに見えるようになってくると、人も増えてくる。まあ、美しくなくはなかった。が、その晩、宿で食べた伊賀牛と地ビールの方が、記憶にしっかりと残っている。松阪牛より、私の舌には合う気がする。

寺島しのぶの気品に痺れた

旅から帰って、車谷長吉の小説『赤目四十八瀧心中未遂』を探したのだが、またしても本棚に見つからない。図書館で借りたのだろうか。読んだ記憶はあるのだが、よく覚えていない。で、レンタルビデオで映画を観た。主演の寺島しのぶが、実に可憐だ。差別を受け、悲しみを秘めて生きる女性でありながら、何とも気品がある。映画初主演らしいが、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞など多くの受賞に輝いたのも、よくわかる。対して主演の新人男優は、あまりぱっとしなかった気がする。

映画を観進めていくうちに、断片的にストーリーを思い出したのだが、小説の記憶では女性がもっと若く、妖艶に描かれていたように思う。もっと「動物的」と言ってもいい。主人公の男性が励むホルモンの下ごしらえと言い、女性が生卵を飲むシーンと言い、どこかに肉の匂いを放つシーンがあり、それが最後の四十八滝巡りで、浄化されていく。そんなイメージが蘇った。だが、小説の細部の記憶はあいまいなままで、確信が持てない。それが悔しくて、古本を買ってしまった。読んだら、また映画を観たくなるかもしれない。

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