あのウィスキーをもう一度 Drink it again

私が愛したお酒たち
ボトルを差し込むと、一本足で立つワイン立て。飲みかけのワインで恐縮です。

私はふだん、あまりウィスキーを飲まない。嫌いではないのだが、食べながら飲むことが多いので、どうしても日本酒やワインのような食中酒に偏ってしまうのだ。もちろん、飲み始めのビールも欠かさない。

もっとも、思い出したようにウィスキーが飲みたくなることもある。そんな時は「シングルモルト余市」だった。香りにも味にも清々しい野生が感じられ、10年ほど前にファンになった。私には高級な(つまり高価な)酒なので、寝しなの1杯だけにしたいのだが、やはりあと1杯、あと1杯とグラスを重ね、結局1週間ほどでボトルが空いてしまう。最近は見かけなくなったが、コンビニでも売っていたことがあり、深夜に買いに出かけたこともある。

だが、昨年の暮れに宗旨替えをした。入手が難しくなったこともあるが、現在は「THE FAMOUS GROUSE」(ザ・フェイマス・グラウス)だ。きっかけは、函館のギャラリー村岡で、店主の村岡さんと話をしたことだった。もう40年近く前のことだが、村岡さんは「ユニオンスクエア」を立ち上げたメンバーの一人である。廃墟同然になっていた旧函館郵便局舎を改装し、工芸家たちの作品展示やカフェなどをつくり、西部地区の象徴空間として蘇らせた。それが現在の赤レンガ倉庫群につながっている。もっとも、今は観光ショッピングモールと化してしまったが。

当時の若者たちの自発的な自己表現の場づくりは、情熱的で、刺激的だったことだろう。そこには自らの生き方を問い、鍛える時間、空間があったに違いない。今ではそんな場所など、社会のどこにもないような気がする。穏やかで控えめだが、村岡さんの言葉の端々に、私が知らない時代の空気があり、その自由さと真剣さにひそかな憧れすら感じたものだ。

話が終わって、私は「記念に一つ、このワイン立てを買っていきます」と言ったら、村岡さんが「ちょっと待ってて」と店の奥に行き、ボトルを手にして戻ってきた。「これを飲んでください。スコットランドで一番飲まれているウィスキーだということです」とおっしゃる。かの地を旅した時に地元の人に教えてもらって以来、村岡さん愛用の酒になったようだ。

恐縮しつつも頂戴し、ホテルで飲んでみた。とろりとした舌触り、濃い味わい。これぞ、父さんも、お爺ちゃんも、ひいお爺ちゃんも飲んできた俺たちのウィスキーだぜ、といった感じがする。日本酒でいえば八海山の本醸造酒や久保田の千寿のような(このたとえ、わかる人にはわかると思う)、酒好きの定番なのだろう。それ以来、私の定番にもなった。札幌では偶然、郊外型の大型書店にある(!)お酒コーナーで発見した。このウィスキーの香りに酔いながら、私は自分の知らない時代(それはまだ40年前の近過去にすぎないのだが)の自由さを味わっている。

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