袋小路にある隠れ家的な一軒家蕎麦屋
札幌は晴れた日が続いている。といっても、すでに風は清明といってよい。札幌の初夏は楽園だと、以前に書いた気がするが、初秋もまたパラダイスである。豪雨の続く九州や暑さの残る本州の人には、少し申し訳ないほどだが、その代償として真冬の豪雪に耐えねばならないので、ご勘弁いただきたい。
さて、そろそろ新蕎麦の季節である。某夜、夕涼みがてらぶらりと歩いて、清流庵ののれんをくぐった。舗装道路から細い砂利道へと入る、袋小路の一軒家蕎麦屋である。店主は北海道出身だが、東京で長く修業したとあって、蕎麦も料理も江戸前のすっきりしたよさがある。もちろん手打ち蕎麦。しかも二八、十割、更科と3種類打つ。札幌には、あまりいい更科がないと思っていたが、彼の打つ蕎麦で認識が変わった。しかも、価格が良心的なので、気が向いたら心安く訪れることができる。ただし、店主一人の店なので、客が多いときは待つ覚悟がいる。
好みの日本酒を仕入れてくれた
カウンターに陣取って、天ぷらの盛り合わせを頼む。お通しとだし巻き卵(これも逸品)でビールを飲み、それから日本酒へ。以前、ここで飲みながら、店主と話しているうちに、お酒の仕入れ先が私の好きな七蔵さんと知って、「じゃあ、私の好きな喜久酔の本醸造を入れてよ」と、頼んだことがある。この酒、私の本醸造酒一押しなのだ。すっきりとして、料理の邪魔をしない清々しい辛口。男らしさがある、まさに男酒なのだが、それでいて飽きないうまさがある。実はこの酒に出合う前は、八海山の本醸造酒を好んでいたが、それより好きだ。しかも、安いのである。
店主は私のわがままを聞いて、その酒を置いてくれるようになった。こんなうれしいことはない。天ぷらをかりっ、喜久酔をくいっ。冷房がないので、窓から麗しい夜風が入る。2杯ほど飲んだところで、せいろか冷やしたぬきで仕上げ。もちろん、昼時に来るのもいいし、昼から飲むのもいい。そういう常連がさほど店主と話もせずに、しかし満足してひと時を過ごす。楽園の片隅に流れるせせらぎに、静かに身を浸すかのように。
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