今年最後の一人飲み

旅のかけら

仙台の夜

12月29日の夜、私は仙台にいた。親族のお通夜に出て、親しくしているいとこと二人で飲んだ帰りだった。夜9時半、仙台駅に近いビジネスホテルの部屋でベッドに横になるには、少し早すぎた。どこかにいいバーでもあれば、と服を着なおし、ふらりと外へ。だが、あいにく入りたい店がない。20分くらい歩き回って、あるビルの地下に降りた。

鮮魚が豊富そうな、小さな店のガラス戸をのぞくと、店主と目が合った。1組グループがいるが、テーブルの上に料理はなく、そろそろ帰るのだろう。店じまいかなと思ったが、店主は「いいよ」という仕草をした。女性3人+男1人のグループは、いかにも二十代らしい明るさで、店主に挨拶をして出ていった。どうやら店主の知り合いらしい。中の一人の女性(人目を惹く美人だった)が「あたし、来年結婚するの。二度目だけど」と、うれしそうに笑っていた。

今年最後の客として

急に静かになった店で、カウンターに腰かける。メニューには宮城の地酒が10種類ほどある。今日は最終営業日なので、どれも1杯500円だという。もうこの時点で「当たりだな」と思う。ダークグレーの背広を着た私を見て、店主は「お客さん、どちらから? ああ、札幌。税務署の人? 急な出張とか」と言う。なかなか渋い、いい声である。「違いますよ。急な葬儀があったのでね」「本当に税務署じゃないの」「そんな風に思うのは、もうかっている証拠だね」。そんな会話から話が弾んだ。

ばぁやんのお茶目な二人。顔だしOKをいただいたので、掲載させていただきました。

蒸した牡蠣もマグロの造りも、素晴らしかった。私は宮城の地酒をいろいろと尋ね、4種類飲んだ。どれもよかったが、とくに日高見と乾坤一がうまく感じた。店主にも1杯勧め、店主は接客担当の女性にビールをご馳走した。店主は「お客さん、今年は〇か×かの二択でいうと、どっち?」と言う。私は×だった(あくまでも仕事の経済面に限った話であるが)。彼は「〇だった」と笑った。そして「しかも、こんないいお客さんで締めくくれるんだから」と言い添えてくれた。私としては、母の故郷ではあるが、見知らぬに等しい街で、一人飲みのつもりが、こんな風に飲めるとは思ってもみなかった。店の名前は「ばぁやん」。

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