もしもマダニに噛まれたら

旅のかけら
ダニやアブと闘いながら、涼しげな渓谷にたどり着いた。

先日、ちょっとした山登りをする機会があった。蒸し暑い日で、最初は長そでの上着を着ていたのだが、たまらず途中で脱いでしまった。半袖になると、かなり涼しい。40分ほどの山道は木々が覆いかぶさるように生え、日陰を作っている。

もちろん、こうした場所こそマダニの住処だ。木の上からぽとりと人の頭や首筋に落ち、もぞもぞと皮膚の薄いところへ這って行って、血を吸う。わかってはいたのだが、ちょっと油断があった。同行したガイドの方は、注意してくれたのだが。

10年ほど前だろうか、マダニにやられたことがある。無人駅から藪をわたって、ひと気のない海岸で過ごしたことがあった。その日の夕方、宿の風呂で体を洗っていると、へそのそばにぷつんと赤いものが見えた。私の皮膚に頭を食い込ませた、マダニの体だった。私はゆっくりと引きはがし、何とか頭も引き抜いた。腹の厚い脂肪が幸いしたのかもしれない。小さな穴がぽつんと開いていた。その時は病院に行くこともなく、しかし何の病気にもならなかった。

今回、山から自宅に帰る途中、右腕に血を吸っているやつがいた。マダニかどうか、ちょっとわかないが、すでに死んでいた。引きはがすと、噛まれた跡が残っていた。首筋もかゆかった。翌朝、仕事場でわき腹に違和感を覚えたので、見てみると、またしてもぷつんと赤く膨らんだものが。

近所の皮膚科に駆け付けると、看護師さんが「足が見えますね」とひと言。マダニ間違いなしである。頭が皮膚に食い込んでおり、医師が針のようなものでツンツンと20回ほど刺し、ピンセットで抜いてくれた。

「ごくまれに感染症になる場合があります。が、抗生物質を飲めば予防できます」と、ミノマイシンという薬を処方してくれた。薬局では「この薬は牛乳やヨーグルトなどの乳製品と飲み合わせが悪いので、薬を飲む前後2時間ほどは控えてください」と言われた。その理由を聞くと「乳製品のカルシウムと結合して、効き目が悪くなります」とのこと。このアドバイスはしっかり守っている。

ところで、この話を師匠にしたら、「毒が回ったんじゃないの」と言うので、「薬を飲んでいるから大丈夫です」と答えたら、「いや、ダニの方に」と返されてしまった。確かに、ダニは私の毒に当たったのかもしれない。

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