時にはヘンリー・ミラーのように

本日の一品

帽子を前に悩む

私は時々、着るものについて大きな過ちを犯す。10年くらい前、ある洋服屋で冬物のジャケットに目が留まった。手触りのいい、しなかやな生地(イタリア製だ)、仕立ても、スタイルもいい。価格も、手が届かないわけではない。だが問題は、それが眼にも鮮やかなピンクの千鳥格子だということだ。実はもう一つ、同じ柄で明るいブルーもあった。私は迷った末に、ピンクを買ったのである。似合わないとは思わないが、そのジャケットを着るのは、今でも年に1、2回だ。なぜあの時、せめて青い方を選ばなかったのか、今でも不思議に思う。

もう一つの思い出が、帽子である。私は基本的に帽子をかぶらない。そもそも頭が大きいので、フィットするものが少ない。また、野球帽のようないわゆるキャップは、雰囲気からして完全にアウトだ。しかしながら、数年前、私はある帽子を前に悩んでいた。その美しいスモークブルー(日本語で藍鼠というのだろう)のハットは、たとえば『気狂いピエロ』のジャン・ポール・べルモンドが、晩秋の街歩きにちょっと気取ってかぶりそうな、いい味なのである。私は迷った末に、もちろん買った。

映画『ヘンリー&ジューン』

その帽子も年に一、二度かぶる程度だ。ピンクのジャケットと合わせて、一度ホテルの中華レストランに行ったこともあるが、もう二度とやるまいと思う。だが先日、ちょっと懐かしくなって、かぶってみた。コートを羽織り、鏡を見てみる。悪くないなと思う。髪が薄くなっていることも、カバーできる。その日は一日、札幌をパリの気分で歩いた。その翌日だったか、仕事場で本棚を見ていたら、映画『ヘンリー&ジューン』のパンフレットが目についた。表紙に映っている、ヘンリー・ミラー役の男の帽子が、私のとそっくりなのだ。写真は光の加減で色が違って見えるが、映画を見直してみると、色もよく似ている。

若いころ、私もヘンリー・ミラーを愛読した。『北回帰線』『南回帰線』『マルーシの巨像』などなど。全集さえ持っている。もちろん映画『ヘンリー&ジューン』も、数回見ている。もしかしたら、私の無意識がこの帽子を選ばせたのかもしれない。そうだとしたら、気づくのがかなり遅れたにせよ、これは運命的な出会いだったのだ。私はひそかにこの帽子を「ヘンリー帽」と名付け、これから札幌を闊歩しようと思う。ただ、ヘンリーのように女性にもてはしないのが、少し残念である。

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